定価 本体60,000円＋税 発行 2010年4月 体裁 B５ﾊｰﾄﾞｶﾊﾞｰ上製341頁 編集 瀬川浩司（東京大学）、内田　聡（東京大学） ISBN   　 ご注文の際は、こちらの注文書をFAXでお送り下さい。 注文書をいただいた後、本を送料小社負担で 請求書とともに御送付いたします。 注文書

19、色素増感太陽電池のモジュール化・材料開発・評価技術

は　じ　め　に

■「発刊にあたって（本書より抜粋）」東京大学　瀬川浩司　 　2008年にはカドミウムテルライド（CdTe）を原料とする低コスト太陽電池を販売する米国ファーストソーラー社が販売実績で世界第二位（シェア約7%）に大躍進したことは注目に値する。この事実は、市場競争力のある太陽電池が登場すれば、一気にそのシェアを塗り替える可能性があることを示している。ただし、CdTe太陽電池は、原料に有害物質を使う点から環境への配慮の上で問題があり、わが国で導入が大きく進むことはないであろう。 　以上前置きが長くなったが、こうした点に次世代型太陽電池として色素増感型や有機薄膜型などの有機系太陽電池が注目される理由がある。シリコン系太陽電池に比べCO2ペイバックタイムも短く環境負荷の低いプロセスでの製造が可能で、素材の多様性もある有機系太陽電池は大きな魅力を秘めている。なかでも色素増感太陽電池の研究開発は着実に進んでおり、図2のようなデザインを重視したインテリアになる太陽電池（詳細は第3編第1章参照）や、図3のような屋外用高耐久性モジュール（詳細は第3編第3章参照）も作成されている。その性能は、サブモジュールの光電変換効率では8.4%、屋外耐久性は加速試験で15年以上を達成するなど、日本の研究グループが優れた成果を出している。有機薄膜型については、光電変換効率や屋外耐久性では色素増感型に及ばないものの、新規材料の開発や発電機構・劣化機構の研究が進めば、大幅な性能向上も期待できる。これらの有機系太陽電池は、原理的には低コストで大量生産が可能であり、既存の太陽電池の生産量とわが国の導入目標の大きなギャップをうまく埋める可能性を持つ。また、国内に限らず海外に目を向けても、太陽電池市場全体が今後も大きく拡大することは疑いなく、有機系太陽電池を中心とした新産業の創生にもつながることが期待される。 　有機系太陽電池の本格的実用化に向けては、光電変換効率や耐久性などをさらに改善する必要があり、可視から近赤外領域に吸収を示す素材開発、高移動度電荷輸送材料の開発、電解質の固体化、高耐久性太陽電池作成技術の確立など、課題が多く残っている。 　本書は、これらの有機系太陽電池の中でも実用化が目前に見えてきた色素増感太陽電池に焦点をあて、材料開発・デバイス化・評価技術の最新情報を網羅的にまとめたものである。2010年から始まる新しい国家プロジェクト「最先端研究開発プログラム」の一つとして採択された「低炭素社会に資する有機系太陽電池の開発」のスタートに合わせて本書を上梓できることは幸いである。

■執筆者一覧　 瀬川浩司　東京大学 柳田祥三　大阪大学 内田　聡　東京大学 三浦偉俊　ケミクレア 原浩二郎　AIST 高田正和　三菱製紙 住岡孝一　三菱製紙 杉原秀樹　AIST 斉藤勝裕　名古屋市立大学 田中洋充　豊田中央研究所 加藤直彦　豊田中央研究所 樋口和夫　豊田中央研究所　 豊田竜生　アイシン精機 瓦家正英　御国色素 森　正悟　信州大学 伊藤省吾　兵庫県立大学 水野隆喜　日揮触媒化成 松井文雄　林原生物化学研究所 大高秀夫　林原生物化学研究所 早瀬修二　九州工業大学 昆野昭則　静岡大学 高岡和千代　三菱製紙 金子正治　SPD研究所 奥谷昌之　静岡大学 岩岡啓明　ジオマテック 岩本伸司　群馬大学 井上正志　京都大学 井上照久　日本化薬 齊藤恭輝　第一工業製薬 村上健司　静岡大学 三国博之　スリーボンド 諸岡正浩　ソニー 関口隆史　パナソニック電工 松井浩志　フジクラ 宮坂　力　桐蔭横浜大学 手島健次郎　ペクセル・テクノロジーズ 池上和志　桐蔭横浜大学 ペクセル・テクノロジーズ 佐々木美帆　大日本印刷 鈴木栄二　信州大学 猪狩真一　AIST 草野清一　分光計器 足立基齊　同志社大学 廣瀬文彦　山形大学 加藤隆二　AIST 宇佐美章　電力中央研究所

緒言
「色素増感太陽電池のモジュール化・材料開発・評価技術」の発刊にあたって
瀬川 浩司

第1 編　色素増感型太陽電池開発・実用化の現状と展望

第1 章　色素増感太陽電池開発の現状と動向　　柳田 祥三
1.　ナノ結晶酸化チタン（nc-TiO2）の動向
2.　増感色素の動向
3.　DSC のへテロ界面の最適制御の動向
4.　I−/I3−電解質に関する動向
5.　非ヨウ素正孔輸送系の動向

第2 章　色素増感太陽電池の実用化動向　　内田　聡　瀬川 浩司
はじめに.
1.　色素増感太陽電池の最高効率
2.　色素増感太陽電池の耐久性
3.　色素増感太陽電池の開発動向
おわりに


第2 編　色素増感型太陽電池の材料開発

第1 章　有機系増感色素の最新技術（色素の分子設計）　　三浦 偉俊
緒言
1.　発色団の選択とエネルギーレベルの調整
2.　アンカー基の導入
3.　共役連結基の選択
4.　複数の発色団の併用
5.　立体効果（置換基の効果）の利用
おわりに

第2 章　クマリン系・カルバゾール系有機合成色素の最新技術　　原 浩二郎
はじめに
1.　クマリン系色素とカルバゾール系色素の分子構造.
2.　太陽電池の光電変換特性
3.　クマリン系色素の会合体抑制による太陽電池の高効率化
4.　有機色素の分子構造による再結合抑制
5.　MK 色素を用いた色素増感太陽電池の耐久性
まとめ.

第3 章　インドリン系有機色素の最新技術　　高田 昌和　住岡 孝一
1.　緒言，及びチアジアゾール型メロシアニン色素
2.　インドリン系赤色色素
3.　インドリン系ダブルロダニン色素.
4.　インドリン系トリプルロダニン色素.
5.　インドリン系シアノ酢酸色素.
6.　インドリン系ヘミシアニン色素
おわりに

第4 章　ルテニウム錯体色素の最新技術（色素デザイン）　　杉原 秀樹
1.　太陽電池用増感色素としての金属錯体のデザイン
2.　励起状態のエネルギーレベルの制御
3.　基底状態のエネルギーレベルの制御
4.　大きな吸光係数をもつ色素

第5 章　赤色ルテニウム錯体色素の最新技術　　齋藤 勝裕
1.　色素増感太陽電池における錯体色素の役割.
　1.1　有機色素増感太陽電池のしくみ.
　1.2　エネルギー準位
2.　錯体の電子状態
　2.1　原子の電子配置
　2.2　錯体のd 軌道エネルギー
3.　ルテニウム錯体の合成
4.　ルテニウム錯体の性質.

第6 章　色素増感型太陽電池用色素の耐久性
田中 洋充　加藤 直彦　樋口 和夫　豊田 竜生
はじめに.
1.　Ru 錯体の耐久性
2.　有機色素の耐久性
おわりに

第7 章　色素増感太陽電池における酸化チタン粒子特性とセル性能　　瓦家 正英
はじめに
1.　酸化チタン粒子の基本特性
2.　酸化チタン粒子特性とセル性能
おわりに

第8 章　酸化チタン電極におけるTiCl4 処理　　森　正悟
1.　目的と効果
2.　方法
3.　機構
まとめ

第9 章 酸化チタンペーストの高効率化（TiO2 粒子合成とそのペーストの調整方法，
コーティング方法，さらに得られた多孔質TiO2 膜の色素増感型太陽電池への膜厚の依存性について）
伊藤 省吾
1.　緒言
2.　光散乱粒子による変換効率の向上
3.　高効率TiO2 電極の作製
　3.1　ペースト作製
　3.2　コーティング
4.　TiO2 電極の膜厚依存性
5.　ナノ粒子の粒径変化と添加剤量によるメソ孔径制御
6.　フレキシブルDSC .
7.　P25 を使用した高効率DSC
まとめ.

第10 章　酸化チタンペーストによる光散乱制御技術　　水野 隆喜
はじめに
1.　光散乱制御技術を用いた色素増感太陽電池の構造
2.　光散乱用酸化チタン材料の特性
3.　二層構造酸化チタン半導体膜
　3.1　二層構造酸化チタン半導体膜の製造法
　3.2　光散乱制御を行ったI-V 特性
おわりに

第11 章　イオン液体電解質最新技術　　松井 文雄　大高 秀夫
はじめに
1.　評価セルの構成
2.　イオン液体電解質の欠点
3.　キャリア濃度を増加させる改良法
4.　イオンの拡散距離の縮小による改良
5.　イオン液体電解質の粘度低減による改良
6.　DSC 周囲温度（動作温度）と電解質粘度
まとめ

第12 章　固体色素増感太陽電池　　早瀬 修二
はじめに
1.　発電機構
2.　有機ホール輸送層を用いた固体DSSC
3.　無機ホール輸送材料を用いた固体DSSC
4.　擬固体DSSC
まとめ

第13 章　ヨウ化銅全固体化電解質最新技術　　昆野 昭則
はじめに
1.　ヨウ化銅をp- 型半導体層とする固体型色素増感太陽電池
2.　CuI 固体型色素増感太陽電池の作製手順
3.　有機色素を用いる固体型色素増感太陽電池
4.　スクリーンプリント法を用いた酸化チタン電極の作製と固体型色素増感太陽電池への最適化
おわりに

第14 章　低分子全固体化電解質最新技術　　高岡 和千代
はじめに
1.　電荷輸送剤について
2.　sprio-OMeTAD について
3.　spiro-OMeTAD 以外について.
4.　固体型有機太陽電池
5.　簡単なss-DSSC
　5.1　セル構成
　5.2　出力特性
　5.3　特性とイオン化ポテンシャルについて
　5.4　このセルの考え方
6.　高性能全固体を目指して
おわりに

第15 章　SPD により作製した透明導電膜（FTO）　　金子 正治
はじめに
1.　SPD による薄膜形成
2.　フッ素ドープ酸化スズ透明導電膜（FTO）の形成
　2.1　電気的性質
　2.2　光学的性質
3.　FTO の面積拡大
まとめ

第16 章　透明導電性ガラスのヘイズ率制御による色素増感太陽電池の高効率化
奥谷 昌之
はじめに
1.　透明導電膜
2.　色素増感太陽電池用の透明導電性ガラスの条件
3.　SPD 法によるFTO 透明導電膜の表面形態制御
4.　集光膜の導入による透明導電ガラスのヘイズ率の制御
まとめ

第17 章　電極基盤最新技術（ITO/ATO 積層膜）　　岩岡 啓明
はじめに
1.　色素増感太陽電池用透明電極に求められる性能
2.　各種透明導電膜の特徴および性能比較
　2.1　導電性（シート抵抗）
　2.2　透明性（透過率）
　2.3　耐熱性
　2.4　耐薬品性.
3.　ITO/ATO 積層膜の特性
　3.1　作製方法
　3.2　積層膜の耐熱性，耐薬品性
　3.3　構造および表面形状
　3.4　シート抵抗および光透過率のバリエーション
　3.5　耐熱性の向上
　3.6　大型基板
おわりに

第18 章　電極基板最新技術− Mg 修飾チタニア−　　岩本 伸司　井上 正志　井上 照久
はじめに
1.　ソルボサーマル法によるMg 修飾チタニアの合成とその物性測定
2.　Mg 修飾チタニアを電極に用いたDSSC の光電変換特性.

第19 章　対極触媒材料（導電性高分子）　　齊藤 恭輝
1.　対極触媒材料について
2.　PEDOT-PTS 対極特性評価
まとめ.

第20 章　対極（Pt）　　村上 健司
はじめに
1.　積層型対向電極
2.　白金層の形成法
　2.1　スプレー熱分解堆積法
　2.2　アークプラズマ堆積法
3.　白金層と太陽電池発電性能
　3.1　色素増感太陽電池の作製
　3.2　太陽電池発電性能
おわりに

第21 章　シール剤（光硬化型）　　三国 博之
はじめに
1.　シール・接着の基礎
　1.1　漏れの種類
　1.2　破壊漏洩の防止
　1.3　界面漏洩の抑制
　1.4　浸透漏洩の抑制
2.　DSC 用シール剤
　2.1　接着剤，シール剤の分類
　2.2　光硬化性シール剤
　2.3　使用上の注意点
3.　DSC 用シール材の特性
　3.1　耐電解液性.
　3.2　水分バリア性，電解液バリア性


第3 編　色素増感電池のデバイス・モジュール化技術

第1 章　色素増感太陽電池モジュールの高効率化と各種環境下での発電特性　　
諸岡 正浩
1.　色素増感太陽電池の研究開発動向
2.　高効率色素増感太陽電池モジュール
　2.1　Z 型モジュール
　2.2　協奏効果
　2.3　I-V 特性
3.　各種環境下におけるセル特性
　3.1　光量とセル特性
　3.2　光源とセル特性
　3.3　温度とセル特性
4.　自律型照明“Hana-Akari”
おわりに

第2 章　室内用途向け色素増感太陽電池の耐久性向上　　関口 隆史
はじめに
1.　色素増感太陽電池
　1.1　発電原理
　1.2　作製方法
　1.3　評価
2.　劣化機構の解明
　2.1　外部環境因子の特定
　2.2　劣化部材の特定
　2.3　劣化形態の特定
　2.4　劣化機構のまとめ
3.　耐久性向上および寿命評価
　3.1　劣化改善
　3.2　寿命評価
最後に

第3 章　ガラスモジュール（屋外耐久試験）−アイシン・豊田中研の取り組みを中心に−
豊田 竜生　樋口 和夫
はじめに
1.　DSC モジュールの屋外での耐久性
2.　DSC モジュールの屋外作動試験の劣化解析
3.　DSC の実用化を目指した動き
おわりに

第4 章　ガラス基板型モジュールの開発状況　　松井 浩志
　はじめに
1.　DSC の大面積化
2.　集電配線型DSC
3.　耐久性の向上
4.　耐久試験
おわりに

第5 章　プラスチックセル創製技術−高効率化と高耐久化−　　
宮坂　力　池上 和志　手島 健次郎
1.　プラスチック化，低コスト化開発に有力な色素増感太陽電池
2.　プラスチック色素増感太陽電池の製作
3.　低抵抗プラスチック透明導電基板の開発
4.　集積型モジュールの製作　
5.　耐久性
おわりに

第6 章　転写法によるプラスチックセル創製技術　　佐々木 美帆
はじめに　−プラスチック基板を用いた色素増感太陽電池−
1.　転写法による色素増感太陽電池の開発
2.　転写法による色素増感太陽電池の作製
　2.1　耐熱基板からTiO2 層を良好に剥離する
　2.2　TiO2 層上への透明導電層の形成
　2.3　プラスチック基板と透明導電層の接着
3.　転写法で作製した色素増感太陽電池の性能
4.　転写法で作製した色素増感太陽電池の耐久性
おわりに

第7 章　タンデム型セル創製最新技術−対極発電を中心に−　　鈴木 栄二
　はじめに
1.　n/p タンデム色素太陽電池の概要
2.　p 型色素増感太陽電池
3.　p 型半導体電極
4.　電解液
5.　色素
6.　n/p タンデム電池の現状
7.　今後の展開

第8 章　タンデム，ハイブリッド太陽電池　　早瀬 修二
はじめに
1.　色素増感太陽電池の現状
2.　一電極型ハイブリッド型色素増感太陽電池.
3.　二電極型タンデム，ハイブリッド色素増感太陽電池
まとめ

第9 章　タンデム型セル最新技術−二層構造を中心に−　　杉原 秀樹

第10 章　出力安定化が可能な蓄電機能つき太陽電池　　瀬川 浩司


第4 編　色素増感型太陽電池の評価技術

第1 章　太陽電池評価用光源と出力特性評価方法　　猪狩 真一
はじめに
1.　基準太陽光とソーラシミュレータの国際規格の改正
2.　基準太陽電池
3.　擬似基準太陽電池
4.　ソーラシミュレータ
5.　色素増感太陽電池セル出力測定方法について

第2 章　分光感度測定による色素増感太陽電池の評価　　草野 清一
1.　分光感度測定法
　1.1　分光感度およびIPCE 計算式
　1.2　太陽電池の分光感度測定法
　1.3　単色光量の測定と校正
　1.4　測定上の留意点
2.　分光感度測定システムの構成
3.　スペクトル測定例
4.　内部量子効率
5.　多接合太陽電池の評価
6.　DSC 評価装置
　6.1　色素増感太陽電池の特徴
　6.2　色素増感太陽電池評価装置の特徴

第3 章　EIS 測定　インピーダンス解析　　足立 基齊
1.　緒言
2.　インピーダンス法とは
3.　色素増感太陽電池へのインピーダンス法の適用
4.　インピーダンス式（6）式の特性
5.　電子移動に関わる諸定数の決定方法
6.　いくつかの条件下での電子移動に関わる諸定数の決定
7.　結論

第4 章　赤外吸収分光評価　　廣瀬 文彦
はじめに
1.　多重内部反射赤外吸収分光
2.　酸化チタン上色素の吸着状態の観察とプロセス改善事例
3.　色素界面の発電中のその場観察事例
　まとめ

第5 章　時間分解分光による色素増感太陽電池の評価　　加藤 隆二
1.　色素増感太陽電池の反応素過程
2.　過渡吸収分光の原理
3.　測定の実際
4.　まとめと展望

第6 章　過渡電流・電圧応答測定による色素増感太陽電池の評価　　森　正悟
1.　電子拡散係数と電子寿命
2.　測定法の原理
3.　測定の注意点と確認の方法
4.　電子移動の機構，測定例，解釈の方法
まとめ

第7 章　計算機シミュレーション　　宇佐美 章
1.　色素増感太陽電池におけるシミュレーションの概要
2.　輸送方程式
3.　光学特性
4.　発電量